ある教え子のこと①~その9~

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直前講習最終回の日、いつもようにNたち独自入試組を別校舎へと送り届けたあと、俺は他の受験生たちと同じ校舎へと向かった。
やはり最終回だけに、ここで俺も1つの決断を下さねばならないという思いもあり、1教科終わるごとに塾生の得点をくまなくチェックしていった。
「伸びない・・・」
「こいつは大丈夫。」
「微妙なライン、あと残り数日で合格ラインまでいけるだろうか・・・」
休み時間のたびに教室に入っては、結果を出せていない塾生を呼び出しあれやこれやとアドバイスや説教・・・。他校の塾生にとっては異様な光景に映ったかもしれない。でも、それくらい必死だった。全員合格を信じて疑わなかった。

結果的に、合格ラインをクリアすることができたのは半数程度。崖っぷちの状況に追い込まれたまま、俺はNたちを迎えに行った。
授業終了数分前に会場校に着き、Nたちが教室から出てくるのを待った。しばらくすると、Nが教室から出てきた。表情は暗い。

「今日はどうだった?」
「・・・・・・」
「どした、ダメだったか。」
「・・・・・・はい。」

言葉に全く覇気がない。ここまで急速に力をつけてきたNだが、やはり独自問題には完全に打ちのめされてしまったようだ。この直前講習で1回でも納得のいく結果が得られていれば、少しは違っていたかもしれないが、全回とも・・・。言うなれば「返り討ち」。自分の力不足、限界を感じ始めたのかもしれない。

直前講習を終え、Nも含め極めて危機的状況にある者たちには個々に志望校変更を勧める話をし、もちろん保護者様にも同様の話をした。しかし、あくまで勧めるだけであり、最終的に決めるのは受験生自身。

この時期はすでに前期選抜が終了し、その合格発表が近づいてきていた。そのころだろうか、自習していたNが神妙な面持ちで俺のところにやってきた。

「先生、俺、志望校考え直そうと思います・・・。」

(最終回へつづく)

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