ある教え子のこと①~その2~

 入塾してからしばらくして、Nの様子が少しずつ変わってきた。何が変わってきたかというと、とにかくよく勉強するようになった。ほとんど毎日のごとく自習室に通うようになった。まぁNの性格上、とてもじゃないが家で勉強するようなタイプではなかったため、ちょうどいい勉強部屋になったのかもしれない。テスト前はもちろん、テスト後もよく自習室に来ては勉強していた。それが全てかなりの集中力をもって取り組めていたかというと、それは正直ない。基本的に落ち着きのないヤツだったので、集中力を切らしては俺によく叱られていたことも当然ある。それでも、暇を持てあましてフラフラと遊びほうけるよりはよっぽどいいと俺は思っていた。

少し気になることがあったりすると、保護者様へ連絡するようにしていた。もちろんNの家にも何度かお電話をしたことがある。すると保護者様から意外な言葉が返ってきた。

「Nが家で勉強するようになってきたんです。こんなの初めてで、ビックリしてるんです。先生、本当にありがとうございます。」

 ご入塾頂く前には必ず保護者様と事前面談をし、塾の指導理念やお約束できることなどを話す。もちろん保護者様からもご要望やお子様の現状をお聞きする。Nのお母様からはこんなことを聞いていた。
「本っ…当に勉強しないんです。全く勉強しないんです。家で机に向かってる姿なんて中学あがってからは一度も見たことがありません。そんな子なんです。」
こんな様子だった。そんなNが勉強しているという。えらく感動されていたのを覚えている。自習室で「勉強する」という習慣が、家でも少しずつ表れてきたのか。まぁどれだけ中身の濃い勉強をしているかどうかは別として、今まで全く勉強してなかったことを考えれば、大変な成長だろう。

 当時、最も自習室を使用していた塾生の1人と言ってもいいほど、よく来ていた。おそらく家で1人で居るのがつまらず、ここに来ればきっと誰か友達がいるかもしれない、そんな思いもあったことと思う。たとえ、そんなきっかけであったとしても、勉強量が増えたということは紛れもない事実であり、学力は着実についていった。ただ…、如何せん、落ち着きのない、だらしない性格のため、テストの点数はそこそこ取れても提出物やら授業態度やらでマイナスされていた。もちろん成績は思うようには上がらなかった。そして目標もまだあるわけでもない。ここぞというときにテストの点が伸び切らないのも、成績に対する執着心が足りないのも、目標がないがなかったため。確かに勉強量そのものは増えたが、ただそれだけだった。

(つづく)

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