ある教え子のこと①~その7~

冬期講習の直前には、恒例の受験生応援イベントがあった。1日に入試必須事項1000題1000点満点を解ききるというハードなものだ。受験生としての士気高揚、入試を突破するための基礎知識の強化、これらがこのイベントの狙いだった。しかし、あろうことか、ここでNは何とも情けない結果に終わる。入塾するまでほとんど勉強などしてこなかったNにとって、中1でも書けるような英単語や漢字に苦戦し、随所に基礎知識の弱さを露呈してしまった。ノルマとしていた得点になど到底及ぶことなく、年末に呼び出しを受けることとなってしまう。しかし、これが契機となったのか、基礎の重要性を痛感したNは、以降、英単語や漢字など、必死に勉強するようになったような気がする。びっしりと漢字が練習書きされたノートを何度も目にしたものだ(相変わらず字は雑だったけど・・・)。模試でもこういう基礎問での失点が目立っていたため、採点をする際にどれだけ「何てもったいない・・・」と思ったことか。

そしていよいよ冬期講習に突入。例年、中3受験生はこの講習中に5回の模試を受けることとなっていた。この模試の結果如何で、合格可能性を推し量る。個々の志望校に応じて目標点数を設定し、それをクリアできるよう指導していく。

地区トップ校を目指すNには、当然のことながらかなり高い点数を設定した。
「このラインを突破しろ。この時期にここまでの得点力がついたら、合格可能性がグンと高まる。」
「はい。」
点数としては決して悪くはなかった。準トップ校なら十分に合格できるだけの得点力はついていた。しかし、トップ校ともなると話は違う。なかなか越えられない、まさしく「壁」がNの前に立ちはだかっていた。Nだけに限らず、他にも「壁」を越えられない塾生は数多くいた。
「お前らどこまで本気でやってんだ!○○高校に受かりたい?ただの口先だけじゃねぇか!そんなんなら受験そのものもやめろ!」
このような檄を講習中に何度も飛ばした。

しかし結局、Nは目標点には届くことなくこの冬期講習を終えることとなった。しかし、この頃だったろうか、Nが真剣に自身を見つめ直し、本当に目標に向かって邁進するようになったのは。俺はNのお父様に電話でこう話した。
「Nがやっと受験生になりましたよ。」

あの適当でいい加減な、努力することが大嫌いだったN、

そんな彼が変身した。

真の受験生に・・・。

(つづく)

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