ある教え子のこと①~その5~

夏期講習を終えて2学期が始まった。中3受験生にとっては勝負の学期、内申点を決する学期の到来だ。
めっきり秋らしくなってきたころ、各高校での説明会も盛んになってくる。説明会や見学会に参加する中3受験生が多い中、Nはあまりそれにも興味がない様子。ただ、相変わらず自習室にはよくやって来る。そんなNの影響を受けてかどうかは分からないが、N以外にも自習室に連日やって来る者が増えてきていた。そんな彼らを見て、『少しずつ受験生らしくなってきたかな』と同僚の先生とよく話をしていたものだ。
「受験勉強」という点では、もちろんまだまだ甘い点は多々あった。何をどう勉強すればいいか、手探り状態の者がほとんどだったろう。しかし、集団で勉強することが習慣となるうちに、互いに競争心が芽生え始め、各々の勉強の質も徐々によくなってきたような気がした。
秋以降、彼らは入試対策としての5科模試を数多く受験することとなる。もちろん結果は校舎内に掲示し、明確な序列化のもと優劣をきっちりつける。訳の分からぬ中途半端な平等よりもよほど健全だ。だから自分の位置が嫌でも分かる。これもまたNのやる気をより一層漲らせた。
「○○に負けたぁ・・・」
「□□に勝った!」
「前回より~点上がった!」
学校のテストではなかなか結果を出せずにいたNだが、この模試では毎回なかなかの結果を叩き出していく。校内上位5位以内にはほぼ毎回ランクインしていた(30名中)。学校のテストより燃えていたのではなかろうか(汗)

確か2学期中間試験の前後、授業日以外でも塾で勉強する中3受験生が増え、塾内に「受験」というピリピリとした空気が漂い始めたころだったろうか、いつもは俺から切り出さなければ受験について話さなかったNが自ら言ってきた。

「先生、俺、志望校、平塚江南にしようと思います。」

(つづく)

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