ここでいう読解力とは、「羅生門」とか「雪国」とか、いわゆる高尚な文学作品を味わえる能力のことではなく、文章の意味内容を正しく理解する力のことだ。昨年、大きな話題を読んだビジネス書『AI vs. 教科書の読めない子どもたち』(新井紀子 著)を例に考えてみたい。

■なぜ読解力が低下しているのか?
一方的に情報や刺激を浴びせかけるテレビや動画に慣れ過ぎてしまうと、理解しようとする必要がなくなり、結果として、 自分の言葉で表現することができなくなる。そして、いざ本や教科書を読もうとすると、文字は追えても何が書かれているのかわからない、という悲劇も起こりかねない。

■「理解する」とはどういうことか?
読解力の前に、まず「理解する」とはどういうことかを改めて考えてみる。「理解する」というのは、事柄の関係性に着目し、体系的に説明を行うことができる、つまり、自分の言葉で言い換えることができることだろう。たとえば、子どもにいろいろと説明した後で、「わかった?」 と尋ねたとしよう。たいていの子どもはとりあえず「 わかった!」「はい!」と答えるものだ。でも、これが落とし穴。子ども、特に小さな子どもにとって、「わかった」と答えるのは、「うん、聞いた」 程度のこと。良い返事のすぐあとに、こちらの言葉を完全に無視したような言動をやらかされると、「何がわかったの!?」とツッコみたくなる。こんな経験をされた親御様も多いのではなかろうか。頭の回転の速い子だと、 親の言った通りに返すことができるが、これは「理解する=丸覚えする」と思っていることも実は多い。

■読解力がないとは具体的にどういうことか。
「読解力」、言葉のとおり、文章の意味内容を正しく理解する能力。新井さんは、AIの研究を進めるうちに、 学生の基本的な読解力に疑問を持ち、 全国2万5千人の中高生を対象に調査を実施した。その調査のために新井さんが独自に開発したテストの一例が以下だ。
==============================
次の文を読みなさい。
「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。」
この文が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」のうちから答えなさい。
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。」
『AI vs. 教科書の読めない子どもたち(新井紀子 著)』より
==============================
どうだろうか。沿岸警備を命じられたのは大名なのだから、 答えは「異なる」に決まっている。でも、 この問題の正答率は中学生で何と57%にとどまったそうな。「うそでしょ?(汗)」と思いたくなるような結果ではなかろうか。

この手の問題が苦手なのは、最近の子どもたちだけではない。AIにとっても難しい問題だそうだ。新井さん曰く、AIは暗記や計算は得意だが、読解力が求められる問題はまだ苦手とのこと。あくまでAIは統計にもとづくデータで判断するだけであり、内容を「理解する」ことはできないらしい。最近では、「AIの到来によって、今後なくなる仕事がある」 ということをよく耳にするけれど、結論から言うと、「なくなる仕事= 読解力を必要としない仕事」だろう。一方、「AIに代わる仕事が増えても、 人間にしかできない仕事は残るのだから、大丈夫」 と考える人もいる。けれども、「人間にしかできない仕事=読解力が必要」となると、不安を禁じ得ない。

読解力はこれからの時代を生き抜くための武器となり得ると言えるのは、こういう理由にある。そして、CLEARが国語の教材に論理エンジンを採択しているのも、子どもたちに貸し出しするための書籍を揃えているのも、然りだ。